「すみません」は謝る言葉?お礼の言葉?|もこコトネと考える日本語の不思議
もこあい先生が、何冊かの本を抱えて歩いていました。
そのとき、一冊の本が床に落ちます。
近くにいた健太が拾ってくれました。
健太「先生、これ落としましたよ」
もこあい先生「あ、すみません。ありがとう」
その横で、もこコトネの動きが止まりました。
もこコトネ「……先生?」
もこあい先生「どうしたの?」
もこコトネ「何か悪いことしたんですか?」
もこあい先生「してないよ」
もこコトネは、さらに不思議そうな顔をしました。
もこコトネ「じゃあ、どうして『すみません』って言ったんですか?」
たしかに、「すみません」は謝るときに使う言葉としてよく知られています。
ところが、実際の会話を見てみると、
- 謝る
- 人に声をかける
- お願いの前置きをする
- 何かしてもらったあとに使う
と、いろいろな場面に登場します。
同じ「すみません」なのに、どうしてこんなに仕事が違うのでしょうか。
今回は、日本語の「なんで?」を集めているもこコトネと一緒に考えてみましょう。
- 最初に結論|「すみません」には一つだけではない役割がある
- ① まずは基本|失敗したときの「すみません」
- ② まだ何も悪いことをしていないのに「すみません」?
- ③ お願いする前にも「すみません」
- ④ 何かしてもらったあとにも「すみません」
- 「ありがとう」と「すみません」は同じではない
- 同じ「すみません」でも、会話の中でしていることが違う
- 「すみません」を見る4チェック
- 辞書の意味だけでなく「会話で何をしているか」を見る
- 悪もこあい先生「すみません」
- 「すみません」だけでは伝わりにくい場面もある
- 日本語を普段使っている人にも「なんで?」はある
- これまでの「日本語の不思議」ともつながっている
- コラム|「すみません」さんも働きすぎでは?
- よくある質問(FAQ)
- もこコトネの今日の「なんで?」
- まとめ|「すみません」は場面を見ると役割が見えてくる
- 参考文献・参考資料
- 訂正・追記履歴
最初に結論|「すみません」には一つだけではない役割がある
今回のポイントを最初に整理しておきましょう。
「すみません」は、いつでも同じことをしているわけではありません。
会話の中では、大きく分けて次のような役割で使われることがあります。
- 謝る
- 相手に声をかける
- お願いの前置きをする
- 感謝や恐縮に関わる場面で使う
ここで大切なのは、
「すみません=4つの意味を暗記する」ことではありません。
見るべきなのは、
「この人は、今この『すみません』で何をしているのだろう?」
ということです。
言葉には、辞書に書かれた意味だけでなく、会話の中で果たしている役割もあります。
前後の会話や場面を見ると、その役割が見つけやすくなります。
① まずは基本|失敗したときの「すみません」
もこコトネはノートを開きました。
もこコトネ「まず、私が知っている『すみません』から確認します」
たとえば、
「遅れてすみません」
「ぶつかってしまって、すみません」
「間違えてしまいました。すみません」
このような場面なら分かりやすいですね。
自分の行動によって相手に迷惑をかけたり、予定どおりにできなかったりしたときに、謝るために「すみません」を使っています。
もこコトネ「これは『ごめんなさい』に近いですね」
もこあい先生「そうだね。まずはここが基本」
ところが、「すみません」の仕事はこれだけではありません。
② まだ何も悪いことをしていないのに「すみません」?
ある日、もこコトネは駅の近くを歩いていました。
知らない人が、通りかかった人に声をかけます。
「すみません。駅はどちらですか?」
もこコトネは、また止まりました。
もこコトネ「……まだ何も悪いことしてませんよね?」
そのとおりです。
道を聞いただけで、失敗したわけではありません。
この「すみません」は、謝罪だけを表していると考えるより、
相手に声をかけ、こちらに注意を向けてもらうための表現
と考えると分かりやすくなります。
もこコトネ「『ちょっといいですか?』みたいな仕事もするんですね」
もこあい先生「そう。人に話しかけるきっかけになることもあるんだよ」
③ お願いする前にも「すみません」
さらに、こんな使い方もあります。
「すみません、これを取っていただけますか?」
「すみません、もう一度お願いします」
「すみません、少し通してもらえますか?」
ここでは「すみません」のあとにお願いが続いています。
お願いするときには、相手に何らかの行動をしてもらうことになります。
そのため「すみません」を前に置くことで、いきなり要求を伝えるより、少しやわらかく始めることがあります。
もこコトネ「声をかけるだけの『すみません』と、お願いの前に置く『すみません』は少し違うんですね」
もこあい先生「重なるところもあるけれど、あとに何が続くかを見ると分かりやすいね」
④ 何かしてもらったあとにも「すみません」
ここで、最初の場面に戻ってみましょう。
健太が、もこあい先生の落とした本を拾ってくれました。
先生は、
「すみません。ありがとう」
と言いました。
もこコトネが考え込みます。
もこコトネ「本を拾ってもらったから、『ありがとう』は分かります」
もこコトネ「でも、『すみません』は何なんですか?」
ここが今回、特に面白いところです。
誰かに何かをしてもらった場面では、感謝だけでなく、
「自分のために手間をかけてもらった」
という気持ちが重なることがあります。
そのため、感謝と、相手に負担をかけたことへの恐縮が重なるような場面で、「すみません」が使われることがあります。
ただし、ここで、
「すみません=ありがとう」
と覚えてしまうのは少し単純すぎます。
「ありがとう」と「すみません」は同じではない
たとえば、荷物を持ってもらった場面を比べてみます。
「荷物を持ってくれて、ありがとう」
相手がしてくれたことへの感謝が前面に出ています。
「荷物まで持ってもらって、すみません」
相手にしてもらったことに対して、恐縮する気持ちも感じられる表現です。
「すみません、ありがとうございます」
実際の会話では、このように「すみません」と「ありがとうございます」が続けて使われることもあります。
つまり、
「すみません」を「ありがとう」の別の言い方だと一対一で置き換える必要はありません。
もこコトネ「謝罪と感謝を、無理やりどちらか一つに決めなくてもいいんですね」
もこあい先生「そう。実際の会話では、気持ちや役割が重なることもあるからね」
同じ「すみません」でも、会話の中でしていることが違う
ここまでを並べてみましょう。
| 例 | 会話の中での主な役割 |
|---|---|
| 遅れてすみません。 | 謝る |
| すみません。駅はどちらですか? | 相手に声をかける |
| すみません、これを取っていただけますか? | お願いの前置きをする |
| わざわざ持ってきてくださって、すみません。 | 感謝や恐縮に関わる |
もこコトネ「全部『すみません』なのに、仕事が違います!」
もこあい先生「だから、言葉だけでなく、その前と後を見るんだね」
「すみません」を見る4チェック
では、「すみません」が出てきたとき、どう考えればよいのでしょうか。
もこコトネと一緒に、4つのチェックにしてみましょう。
① 何か失敗したあと?
遅刻した、ぶつかった、間違えた。
そのような出来事のあとなら、謝罪としての「すみません」の可能性があります。
② これから誰かに話しかけるところ?
「すみません。駅はどちらですか?」
このように会話を始めているなら、呼びかけとして使われていると考えられます。
③ 「すみません」のあとにお願いが続く?
「すみません、これを取ってください」
「すみません、もう一度お願いします」
この場合は、お願いを始める前置きになっています。
④ 何かしてもらったあと?
相手に助けてもらったり、手間をかけてもらったりしたあとなら、感謝や恐縮に関わる「すみません」かもしれません。
大切なのは、
「すみません」という一語だけを見て決めないこと。
前後の会話と場面を一緒に見ることです。
辞書の意味だけでなく「会話で何をしているか」を見る
ここまで考えてきたことには、シリーズ全体にもつながる大切なポイントがあります。
言葉を理解するとき、
「この言葉の意味は何?」
と考えるだけでなく、
「この人は、この言葉を使って今何をしているの?」
と考える方法もあります。
「すみません」なら、
- 謝っている?
- 話しかけている?
- お願いを始めている?
- してもらったことに応えている?
と見るわけです。
もこコトネ「言葉の意味だけじゃなくて、言葉の“仕事”を見るんですね!」
もこあい先生「いい見方だね」
悪もこあい先生「すみません」
そのときです。
黒と深紫の服に身を包んだ悪もこあい先生が現れました。
悪もこあい先生「もこコトネ。すみません」
もこコトネは身構えました。
もこコトネ「……何をしたんですか?」
悪もこあい先生「何もしていないわ」
もこコトネ「じゃあ、どうして謝ったんですか?」
悪もこあい先生は、少しいたずらっぽく笑いました。
悪もこあい先生「あなたを呼んだだけよ」
もこコトネ「もう『すみません』が分かりません!」
悪もこあい先生は、机の上を指さしました。
悪もこあい先生「では、そのプリンを取ってくださる?」
もこコトネがプリンを渡します。
悪もこあい先生「すみません」
もこコトネ「今度はどの『すみません』ですか!?」
「すみません」だけでは伝わりにくい場面もある
「すみません」は、とても便利な表現です。
ただし、便利だからこそ、何について言っているのかをはっきりさせたほうがよい場面もあります。
たとえば、しっかり謝る必要があるなら、
「遅れてしまって、すみません」
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
のように、何について謝っているのかを伝えたほうが分かりやすくなります。
感謝をしっかり伝えたいなら、
「ありがとうございます」
とはっきり言うこともできます。
人に話しかけるなら、
「すみません、少しいいですか?」
と続ければ、何をしたいのかが伝わりやすくなります。
もこコトネ「『すみません』一個に、全部任せなくてもいいんですね」
もこあい先生「大切なことほど、少し言葉を足すと伝わりやすいね」
日本語を普段使っている人にも「なんで?」はある
「すみません」の使い分けは、日本語を勉強している人にとって難しいところの一つです。
でも、このシリーズは日本語学習者だけのものではありません。
日本語を普段から使っている人でも、
「そういえば、どうしてこの場面で『すみません』って言うんだろう?」
と考えてみると、いつも何気なく使っている言葉の面白さが見えてきます。
普段は自然に使えているからこそ、
「なんで?」と立ち止まってみる。
それも、言葉を学ぶ方法の一つです。
これまでの「日本語の不思議」ともつながっている
もこコトネは、これまでのノートを開きました。
第1弾では、
を考えました。
言葉だけを見るのではなく、どんな場面で言われたのかを見ることが大切でした。
第2弾では、
「大丈夫です」はYES?NO?
何について「大丈夫」と答えているのかを、前後の会話から考えました。
第3弾では、
「今日はちょっと…」だけでなぜ断ったことになるの?
言い切らなくても、前後や場面から断りの意図が伝わることがあると考えました。
そして今回の「すみません」では、
同じ言葉でも、会話の中で果たしている役割が違うことがある
と分かりました。
もこコトネ「やっぱり、言葉だけじゃなくて前後と場面を見るんですね」
もこあい先生「シリーズの共通点が見えてきたね」
コラム|「すみません」さんも働きすぎでは?
もこコトネは、自分のノートを見ました。
そこには、
- 謝る
- 呼びかける
- お願いの前置き
- 感謝や恐縮に関わる
と書かれています。
もこコトネは、前回の記事を思い出しました。
もこコトネ「先生……」
もこあい先生「どうしたの?」
もこコトネ「『ちょっと』さんの次は、『すみません』さんも働きすぎでは?」
そこへ、悪もこあい先生が顔を出しました。
悪もこあい先生「また給料を上げなくてはいけないわね」
もこコトネ「言葉に給料はありません!」
どうやら、日本語には働き者の言葉がたくさんいるようです。
よくある質問(FAQ)
「すみません」と「ごめんなさい」は同じですか?
どちらも謝るときに使えますが、いつでも同じように使えるわけではありません。
たとえば、
「すみません、駅はどちらですか?」
は自然ですが、
「ごめんなさい、駅はどちらですか?」
にそのまま置き換えると、受ける印象が変わります。
つまり、「すみません」には謝罪以外の場面でも使われる広がりがあります。
お礼なら「ありがとう」だけでいいですか?
もちろん、「ありがとうございます」と伝えることは自然です。
何かしてもらった場面では、
「ありがとうございます」
だけを使うこともあれば、
「すみません、ありがとうございます」
のように使われることもあります。
場面や関係性によって使い方は変わるため、「必ずこちらが正しい」と一つに決める必要はありません。
店員さんを呼ぶときに「すみません」は失礼ですか?
「すみません」は、人に声をかける表現として使われることがあります。
ただし、言葉だけでなく、声の大きさや言い方、状況なども相手が受ける印象に関わります。
言葉一つだけで丁寧・失礼を決めるのではなく、場面全体を見ることが大切です。
もこコトネの今日の「なんで?」
その日の夜。
もこコトネは、今日わかったことをノートにまとめました。
- 「すみません」は謝罪だけに使うとは限らない
- 人に声をかけるときにも使われる
- お願いの前置きになることもある
- 感謝と恐縮が重なるような場面でも使われることがある
- 「すみません=ありがとう」と単純に置き換えない
- 「すみません」の前と後を見る
- 言葉の意味だけでなく、会話の中で何をしているかを見る
もこコトネは、ノートを閉じようとして、ふと手を止めました。
もこコトネ「日本語って、一つの言葉がいろいろな仕事をしていますね」
もこあい先生「そうだね」
もこコトネ「でも、前よりちょっと分かるようになってきました」
もこあい先生「『ちょっと』?」
もこコトネは、はっとしました。
もこコトネ「……また出てきた!」
まとめ|「すみません」は場面を見ると役割が見えてくる
「すみません」は、
謝るときだけの言葉ではありません。
相手に声をかける。
お願いを始める。
何かをしてもらった場面で使う。
そんなところにも「すみません」は登場します。
だから、
「すみません=○○」
と一つに決めるのではなく、
「この人は、今この『すみません』で何をしているんだろう?」
と考えてみましょう。
シリーズ共通の見方は、とてもシンプルです。
- 言葉だけを見る
- 前後の会話と場面を見る
- 相手が何を伝えようとしているのか考える
いつもの言葉でも、「なんで?」と立ち止まると、新しい発見があります。
そのとき、もこコトネがまた手を挙げました。
もこコトネ「先生、もう一つあります」
もこあい先生「今度は何?」
もこコトネ「『よろしくお願いします』って……何をお願いしているんですか?」
もこあい先生は、少し考えました。
もこあい先生「……たしかに、何をお願いしているんだろうね」
もこコトネ「先生も考えるんですか!?」
どうやら、日本語の「なんで?」はまだまだ続きそうです。
今日の“なんで?”を大切にしよう。
正解より、考えた道のりが宝もの。
参考文献・参考資料
- 国際交流基金 日本語教育関連教材
- 国際交流基金「いろどり 生活の日本語」
- 梁勝奎・岸本健太「感謝表現と謝罪表現の併用事例の会話分析―『すみません』と『ごめんなさい』の使い分け―」人工知能学会研究会資料、2024年
- 山本晶友・入江ひとみ・大石有里花・上杉優・樋口匡貴「謝罪型感謝『すみません』の起こりやすさにゼロサム信念が及ぼす影響」『感情心理学研究』30巻2号、2023年
※この記事では、日常会話の例を使って「すみません」の使われ方を分かりやすく整理しています。実際の受け取り方は、前後の会話、相手との関係、声の調子、場面などによって変わることがあります。
訂正・追記履歴
2026年9月20日
初稿作成。「すみません」の謝罪・呼びかけ・お願いの前置き・感謝や恐縮に関わる使い方を整理しました。












