「失礼します」って何が失礼なの?|もこコトネと考える日本語の不思議
ある日の放課後。
もこコトネは、もこあい先生への質問を終えて、
教室を出ようとしていました。
もこコトネ「ありがとうございました。失礼します!」
もこあい先生「はい、またね」
ドアに手をかけたところで、
もこコトネがぴたりと止まりました。
もこコトネ「……先生」
もこあい先生「どうしたの?」
もこコトネ「私、今なにか失礼なことしました?」
もこあい先生「してないよ」
もこコトネ「じゃあ、なんで『失礼します』って言ったんですか?」
「失礼」という言葉だけを見ると、
礼儀に欠けることを思い浮かべます。
ところが私たちは、
- 部屋に入るとき
- 部屋から出るとき
- 仕事を先に終えて帰るとき
- 電話を終えるとき
- 人の前を通るとき
にも「失礼します」を使うことがあります。
まだ何も悪いことをしていないのに、
どうして「失礼します」なのでしょうか。
今回も、もこコトネと一緒に、
言葉だけではなく、前後と場面を見ながら考えてみましょう。
- 最初に結論|「失礼します」は、謝罪だけの言葉ではない
- ① 部屋に入る前なのに「失礼します」
- ② 出るときにも「失礼します」
- 入るときも出るときも「失礼します」なのはなぜ?
- ③ 「お先に失礼します」は、何に対して失礼なの?
- ④ 電話にはドアがないのに「失礼します」
- ⑤ 「ちょっと失礼します」は、どこにも出入りしていない?
- 「失礼します」を外すと、何が残る?
- 「失礼します」と「失礼しました」はどう違う?
- 「失礼します」と「すみません」は同じ?
- 「失礼します」と「お邪魔します」は同じ?
- ミニコラム|「失礼いたします」は何が違う?
- 悪もこあい先生「私は何も失礼なことをしていないわ」
- 保存用|「失礼します」を見る4つの手がかり
- ミニクイズ|この「失礼します」は何をしている?
- もこコトネと見る|日本語の3ステップ
- まとめ|「失礼」という言葉だけで意味を決めない
- よくある質問(FAQ)
- このシリーズのほかの記事
- もこコトネの次の「なんで?」
- 参考文献・参考資料
- 訂正・追記履歴
最初に結論|「失礼します」は、謝罪だけの言葉ではない
「失礼します」は、いつでも
「私は礼儀を欠きました」
という意味で使われているわけではありません。
辞書を見ると、「失礼」には、
礼儀を欠くことのほかにも、
人のもとを立ち去ることを丁寧に表す使い方や、
尋ねる・頼む・別れるときなどに使う表現としての用法があります。
実際の会話を見ると、
相手への配慮を示しながら、
自分がこれからする行動や、会話の区切りを伝える
ときにも使われています。
ただし、
「失礼します=区切りの言葉」
と一つに決めれば、すべて説明できるわけでもありません。
今回のポイントは、
「この『失礼します』は、この場面で何をしている?」
と考えることです。
① 部屋に入る前なのに「失礼します」
もこコトネが職員室の前に来ました。
コンコン。
もこコトネ「失礼します」
もこあい先生「どうぞ」
もこコトネがドアを開けます。
そして、また首をかしげました。
もこコトネ「まだ何もしてないのに、もう謝ったんですか?」
ここでは、
何か悪いことをしたあとで謝っているわけではありません。
相手がいる場所へ入る前に、
「これから入ります」と伝えながら、
相手への配慮を示していると考えると分かりやすくなります。
② 出るときにも「失礼します」
今度は質問が終わりました。
もこコトネ「ありがとうございました。では、失礼します」
もこコトネが部屋を出ようとします。
ところが、また止まりました。
もこコトネ「入るときも言って、出るときも言うんですか?」
もこあい先生「そういう場面があるね」
「失礼」は、
人のもとを立ち去ることを丁寧に表すときにも使われます。
代表的な表現が、
「お先に失礼します」
です。
退室するときも、
「私はこれから悪いことをします」
という意味ではなく、
「ここでこの場を離れます」
と、相手への配慮とともに伝えていると見ると分かりやすくなります。
入るときも出るときも「失礼します」なのはなぜ?
ここが今回の記事で、いちばん面白いところです。
入室では、
相手のいる場所へ入る。
退室では、
相手とのやり取りを終えて、その場所を離れる。
方向は反対ですが、
どちらも人とのやり取りの中で、
自分が次の行動へ移るところです。
もこコトネがノートに書きました。
入る → 失礼します
出る → 失礼します
しばらく見つめてから、一言。
もこコトネ「同じ言葉がドアの両側にいます……」
③ 「お先に失礼します」は、何に対して失礼なの?
今度は職場です。
ほかの人がまだ仕事をしている中、
一人が先に帰ります。
「お先に失礼します」
すると、
「お疲れさまでした」
と返ってくることがあります。
「お先に」は、
ほかの人より先にその場を離れることを表しています。
だからといって、
先に帰ること自体を
「悪いこと」と決める必要はありません。
この場面では、
相手への配慮を示しながら、
自分がその場を離れることを伝えるあいさつ
として見ると分かりやすいでしょう。
ちなみに「お疲れさまです」も、
本当に疲れている人だけに使う言葉ではありません。
「お疲れさまです」って疲れていない人にもなぜ言うの?|もこコトネと考える日本語の不思議
④ 電話にはドアがないのに「失礼します」
次は電話です。
「それでは、失礼します」
と言って電話を終えることがあります。
もこコトネが気づきました。
もこコトネ「先生、今度はドアがありません!」
もこあい先生「電話だからね」
ここで見たいのは、
物理的な部屋の出入りではありません。
会話そのものが終わるところ
です。
電話では、
「これで会話を終えます」
という区切りを丁寧に示すために、
「失礼します」が使われることがあります。
つまり、
場所から出るときだけの表現でもないわけです。
⑤ 「ちょっと失礼します」は、どこにも出入りしていない?
では、こんな場面はどうでしょう。
人の前を通らなければならないとき、
「ちょっと失礼します」
と言うことがあります。
もこコトネ「入ってないし、帰ってもいません」
もこあい先生「そうだね」
この場合は、
相手の近くを通ったり、
相手の空間に一時的に入ったりするときの
配慮の声かけとして使われています。
ここまでくると、
「入る・出る・終わる」だけでも、すべては説明できない
ことが分かります。
だから、
「失礼します=○○」と一つに固定するより、
その場面で何をしているのかを見る
ことが大切なのです。
「失礼します」を外すと、何が残る?
ここで、このシリーズで使ってきた
「外して比べる」をやってみましょう。
「ありがとうございました。失礼します」
から「失礼します」を外すと、
「ありがとうございました」
になります。
感謝そのものは残っています。
では、この場面の「失礼します」は、
何をしていたのでしょうか。
ここでは、
「ここでやり取りを終えて、私はこの場を離れます」
ということを丁寧に示す働きが見えてきます。
言葉を一度外してみると、
その言葉が会話の中で担当していた仕事が見えやすくなることがあります。
「失礼します」と「失礼しました」はどう違う?
ここは、少し注意が必要です。
たとえば、相手の話を途中でさえぎってしまったあとなら、
「先ほどは失礼しました」
と言うことがあります。
この場合は、
すでに起きたことについて謝る働きがはっきりしています。
しかし、
「失礼します=これから」
「失礼しました=過去の失敗」
とだけ覚えるのは正確ではありません。
退室するときにも、
「失礼します」だけでなく
「失礼しました」と言うことがあります。
その場合、
必ずしも
「私は何かマナー違反をしました」
という意味だけではありません。
つまり、
「します/しました」という形だけで、役割を決めない。
ここでも前後と場面を見る必要があります。
「失礼します」と「すみません」は同じ?
似た場面で、
「すみません」を使うこともあります。
たとえば、
「すみません、ちょっといいですか?」
という声かけです。
一方、人の前を通るときには、
「前を失礼します」
と言うことがあります。
ただし、
「すみません=失礼します」
と完全に置き換えられるわけではありません。
似て見える表現でも、
どんな場面で、何をしているのかを見ることが大切です。
「すみません」についてはこちらの記事で詳しく考えています。
「すみません」は謝る言葉?お礼の言葉?|もこコトネと考える日本語の不思議
「失礼します」と「お邪魔します」は同じ?
もこコトネに、もう一つ疑問が浮かびました。
もこコトネ「先生、人の家に入るときは『お邪魔します』とも言いますよね?」
もこあい先生「いいところに気づいたね」
たしかに、どちらも
相手のいる場所へ入る場面で使われることがあります。
ただし、完全に同じではありません。
| 表現 | 使われやすい場面 |
|---|---|
| 失礼します | 職員室・会社・仕事の場などを含む、幅広い入室場面 |
| お邪魔します | 人の家など、相手の場所を訪れて中へ入る場面で特に使われやすい |
「お邪魔します」には、
「あなたの場所に入らせてもらいます」
という配慮が見えやすくなっています。
一方、「失礼します」は、
入室だけでなく、
退室・電話の終了・人の前を通る場面などにも使われます。
どちらも相手への配慮がある。
でも、使う場面は全部同じではない。
ミニコラム|「失礼いたします」は何が違う?
仕事や改まった場面では、
「失礼いたします」
という言い方もあります。
「いたす」は「する」の
丁重語(謙譲語II)として使われる表現です。
そのため「失礼いたします」は、
「失礼します」よりも
丁重で、改まった言い方として使われることがあります。
ただし、
日常のあらゆる場面で
「失礼いたします」にすればよいわけではありません。
相手・場面・関係に合わせて表現を選ぶ
と考えておけば十分です。
悪もこあい先生「私は何も失礼なことをしていないわ」
そのときです。
悪もこあい先生が、
優雅に教室を出ようとしました。
悪もこあい先生「では、失礼します」
もこコトネが追いかけます。
もこコトネ「悪もこあい先生!」
悪もこあい先生「なにかしら?」
もこコトネ「今、何が失礼だったんですか?」
悪もこあい先生は、少し考えました。
悪もこあい先生「何も」
もこコトネ「じゃあ、なぜ言ったんですか!」
悪もこあい先生は、いたずらっぽく笑いました。
悪もこあい先生「礼儀正しい私を表現するためよ」
もこコトネ「急に自分を褒め始めた!」
保存用|「失礼します」を見る4つの手がかり
「失礼します」が出てきたら、
意味を一つに決める前に、
次の4つを見てみましょう。
① 相手のいる場所へ入るところ?
入室前の丁寧な声かけかもしれません。
② その場から離れるところ?
退室や「お先に失礼します」のような
別れの表現かもしれません。
③ 会話や電話を終えるところ?
やり取りを終える区切りとして
使われているかもしれません。
④ 相手の近くを通ったり、相手の空間に入ったりするところ?
相手への配慮を示す声かけかもしれません。
「失礼」という言葉だけで決めない。
その人が今、何をしようとしているのかを見る!
ミニクイズ|この「失礼します」は何をしている?
第1問
コンコン。
「失礼します」
先生の部屋に入ります。
答えを見る
入室前の丁寧な声かけと考えると分かりやすいでしょう。
第2問
「ありがとうございました。では、失礼します」
部屋を出ます。
答えを見る
その場を離れることを丁寧に伝える表現として働いています。
第3問
「それでは、失礼します」
電話を終えます。
答えを見る
会話を終える区切りとして使われています。
第4問|少し難しい問題
人が座っている前を通るとき、
「前を失礼します」
と言いました。
これは、
「悪いことをしてしまった」という謝罪でしょうか。
答えを見る
この場面では、
相手の近くを通ることへの配慮を示す声かけ
と考えると分かりやすいでしょう。
同じ「失礼」でも、
場面によって働きが変わります。
もこコトネと見る|日本語の3ステップ
今回も、シリーズ共通の考え方が使えます。
① その言葉を見る
まず「失礼」という言葉そのものを見ます。
② 前後と場面を見る
入るところなのか、
出るところなのか、
電話を終えるところなのかを確認します。
③ 会話の中で何をしているか考える
謝っているのか、
行動の区切りを示しているのか、
相手への配慮を示しているのかを考えます。
そして今回も、
言葉だけで全部決めない!
が大切です。
まとめ|「失礼」という言葉だけで意味を決めない
「失礼します」は、
何か悪いことをしたあとだけに使う表現ではありません。
部屋に入る。
部屋を出る。
仕事を先に終えて帰る。
電話を終える。
人の前を通る。
こうした場面では、
相手への配慮を示しながら、
自分の行動や会話を次へ進める
という働きが見えることがあります。
でも、
「失礼します」にはさまざまな使い方があります。
だから、
「失礼します=○○」と一つだけに決めない。
「この人は、今どんな場面で何をしようとしている?」
そこまで見ると、
短い定型表現が会話の中でしている仕事が見えてきます。
今日の“なんで?”を大切にしよう。
正解より、考えた道のりが宝もの。
よくある質問(FAQ)
「失礼します」は謝っている言葉ですか?
必ずしも謝罪とは限りません。
入室・退室・電話の終了・人の前を通る場面などでも使われます。
前後と場面を見ることが大切です。
入るときと出るとき、両方で「失礼します」と言うの?
はい。
どちらの場面でも使われることがあります。
だからこそ、
「同じ言葉でも、その場面で何をしているかを見る」
ことが大切です。
「失礼します」と「失礼しました」はどちらが正しい?
場面によります。
入室では「失礼します」が一般的ですが、
退室では「失礼します」「失礼しました」の両方が使われることがあります。
「しました=必ず謝罪」とだけ覚えないようにしましょう。
「失礼します」と「お邪魔します」は同じ?
完全に同じではありません。
「お邪魔します」は、
人の家など相手の場所を訪れて中へ入る場面で特に使われやすい表現です。
「失礼します」は、
入室だけでなく、退室・電話の終了など幅広い場面で使われます。
「失礼いたします」のほうが正しい?
「失礼します」も丁寧な表現です。
「失礼いたします」は、
より丁重で改まった言い方として使われることがあります。
どちらか一方だけが正しいというより、
相手や場面によって使い分けます。
このシリーズのほかの記事
- 「私はうなぎです」ってどういうこと?
- 「大丈夫です」はYES?NO?
- 「今日はちょっと…」だけでなぜ断ったことになるの?
- 「すみません」は謝る言葉?お礼の言葉?
- 「よろしくお願いします」って何をお願いしているの?
- 「お疲れさまです」って疲れていない人にもなぜ言うの?
- 「どうも」って結局どういう意味?
シリーズを通して大切にしているのは、
言葉だけで全部決めないこと。
前後・場面・会話の中での働きまで見ると、
日本語の不思議が少しずつ見えてきます。
もこコトネの次の「なんで?」
その日の帰り道。
もこコトネはスマートフォンを見ながら、
また足を止めました。
画面には、
メールの最初の一文が表示されています。
「いつもお世話になっております」
もこコトネは首をかしげました。
もこコトネ「先生」
もこあい先生「今度はなに?」
もこコトネ「この人……何のお世話をしてもらってるんですか?」
もこあい先生「そこに気づいたか……」
次回の「なんで?」は、
「お世話になっております」って、何のお世話?
です。
参考文献・参考資料
- 小学館『デジタル大辞泉』「失礼」
- 小学館『精選版 日本国語大辞典』「失礼」
- 文化庁『敬語の指針』
- 国際交流基金『いろどり 生活の日本語』
- 国際交流基金「みんなの教材サイト」
- 日本語検定「日本語クリニック」『「失礼します」か「失礼しました」か』
※この記事では、辞書・敬語に関する公的資料・日本語教育教材などを参考にしながら、
日常会話での「失礼します」の働きを、
初めて読む人にも分かりやすい形に整理しています。
訂正・追記履歴
- 初稿:
「失礼します」を入室・退室・電話・人の前を通る場面などから整理しました。
「失礼しました」「お邪魔します」「失礼いたします」との違いも補足しています。












